新婦の控え室に入る前に小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、僕は遠慮がちに扉をノックした。
するとすぐに中から透き通るような声が聞こえてくる。
「はい。」
「僕ですけど・・・入っても構いませんか?」
「えぇどうぞ。」
了承を確認してからゆっくり扉を開けると、そこには純白のドレスに身を包んだが背もたれのない大きな椅子に座っていた。
「カトル!」
僕の姿を見ると顔にかかっていたベールを微かに手で避けて笑顔で迎えてくれる。
「おめでとうございます、。」
僕は静かに扉を閉めると、昔とは違った今の流行とも言えるショートタイプのウェディングドレスに身を包んだ彼女の姿をじっと見つめ微笑んだ。
「とても綺麗ですよ。」
「・・・ありがとう。」
「デュオはとても幸せでしょうね・・・こんなに綺麗なお嫁さんを貰えて・・・っと、そう言えばデュオの姿がまだ見えないようですけど?」
お祭り好きの彼の事だから、絶対に新郎控え室などでじっとしておらず受付か、別室、または新婦控え室に居座り彼女の今日の美しさを存分に褒め称えるだろうと思ってこっちに来たんですけど・・・見当たりませんね。
そんな事を考えながら周囲を見回していると、がクスクス笑いながら部屋の時計を指差した。
「昨日受けた任務がまだ終わってないんです。」
「式の前日に仕事をしてるんですか?!」
デュオは一体何を考えてるんですか?
男性にとってはただの結婚式でも、女性からすればたった一度の結婚式・・・重大イベントのひとつなんですよ!?
「・・・も大変ですね。」
「そんな事ないですよ。本当はキャンセルしようかってデュオは言ってたんですけど、私が一度受けた任務は必ず完了させなさいって言ったから・・・」
ニッコリ微笑むはいつも以上に綺麗で、これからデュオの奥さんになると言うのに僕はやはり彼女に抱いた恋心を消す事が・・・出来ない。
いえ、本当は初めて会った時からこの笑顔が忘れられなかったんですけどね。
「それじゃぁ、もしデュオが間に合わなければ僕が代理で式を挙げましょうか?」
冗談半分、本気半分・・・ニッコリ笑顔で手を差し出せばは楽しそうに笑い出した。
「冗談でも嬉しいわ。でも大丈夫、デュオは私との約束を破った事がないから。」
何処か誇らしげに微笑む彼女は・・・やっぱり僕にとって愛しい人で、そしていつの間にか手の届かない女性になっていた。
「そうですね。彼は何があっても駆けつけて来ますね。・・・じゃぁ僕はヒイロ達とホテルの入り口でデュオを出迎える事にします。でももし本当に遅れそうなら言って下さい。ウイナー家の威信にかけてもデュオを式場へ間に合わせますから。」
「頼もしい言葉ありがとう、カトル。」
「本当に今日はおめでとうございます。」
そう言って扉を閉じると、ホンの少し痛む胸を手で押さえながら僕は受付の隅の方にいるであろうかつてのガンダムパイロット達の元へ向かった。
「ヒイロ!五飛!トロワー!!」
「・・・煩いぞ。」
「久し振りだな、カトル。」
「うん!皆も元気そうで・・・ヒイロどうしたんだい?そんな怖い顔をして・・・」
ふと一番隅にいるヒイロを見るとやけに不機嫌そうな顔で腕を組んで外を見ている。
彼が何故そんな顔をしているのか素直に教えてくれるとも思わないが、の晴れやかな日にその顔はちょっとまずいですよ。
そう思って理由を尋ねようとした僕の肩をトロワにつかまれた。
「・・・今はほっといてやれ。」
「どういう事?」
するとトロワは珍しく苦笑しながらヒイロに聞こえないようその不機嫌な顔をしている理由を教えてくれた。
「デュオとの結婚を聞いてリリーナさんもヒイロに結婚を迫りだした?」
「そういう事だ。」
「それはまた・・・」
ヒイロにとっては大変な事だね。
ヒイロがリリーナさんを大切に思っている事は僕らでも分かってるけど、その彼が結婚するというのは中々想像出来ませんしね。
「ふん。結婚なんて面倒なこと良くやるもんだ。」
「いいじゃないですか、五飛はしたくないんですか?結婚。」
「俺は一生せん。」
そんなにキッパリ言い切るなんて、五飛は結婚にあんまりいいイメージを持っていないんでしょうか?
「まぁ結婚するしないは個人の問題だからな。」
「トロワはどうなんです?」
隣にいるトロワに尋ねると、暫く手を顎に当てて考えていた風だがやがて出た結論を簡潔に教えてくれた。
「良い相手と巡り合えばしたい・・・と思う。俺も温かい家庭というのには少し憧れるからな。」
「そうですね。」
トロワの言葉に少し元気を取り戻すと、ふいに上の部屋の方から爆発音が聞こえた。
長年の経験から全員が一瞬視線を合わせると、避難してくる人の波を掻き分けて爆発音のした方角へと走り出す。
「・・・小型爆弾か。」
「時間はちょうど11時でした。」
「時限式・・・かもしれんな。」
「よし、分散して他に怪しい物等がないか探そう。もし爆弾を見つけたら各自で判断して処理する。いいな?」
「「「了解」」」
トロワの指示に小さく頷くと僕達は結婚式場であるホテル内に分散した。
「・・・彼女は大丈夫かな。」
皆と分かれてあの場を離れてすぐ、僕の足は地面に縫い付けられたかのように止まってしまった。
つい先程純白のドレスを着て微笑んでいたの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。
彼女は無事なのだろうか?
怪我はしていないだろうか?
そう考えると気が散ってしまっていつものように集中できない。
「困りましたね。」
誰に言うでもなくそう呟くと、僕はくるりと踵を返して彼女の控え室のある階へ足を向けた。
もし爆発物があるとしてこれからその処理に入るのにこんな中途半端な気持ちじゃ何も上手くいかない。
せめて彼女の無事を確認してから任務に入ろう。
それほどまでに自分の中で彼女の存在が大きくなっている事に些か驚きながらも、僕は軽くなった足で新婦控え室へ向かった。
「・・・どうしてここに皆揃ってるんだい?」
「それは俺も聞きたい。」
新婦の部屋の前に・・・分かれたはずの五飛、トロワ・・・それにヒイロまでが揃って扉に手を伸ばしていた。
「いや・・・俺は今日の主役に怪我がないかどうか確認を・・・」
「俺もだ。」
「・・・」
それなら何故皆顔が微妙に赤いんだ?
まさか、僕と同じ理由と言うわけじゃないだろうね。
「・・・今回の爆破は陽動と見ていいだろう。」
「「「ヒイロ?」」」
今日初めて聞いたヒイロの声は意外な事を僕らに告げた。
「何らかの目的があって他の一般客を外部へ逃がし、その間に事を済ませようとしている。他にこんな町外れの小さなホテルを爆破する理由が思いつかん。」
「・・・さすがヒイロだね。」
こんな状況で僕は彼女の身の安全を一番に考えてしまった。だけどヒイロはたった一度の爆破だけでそこまで読んで、会場内で一番恨みを買っているであろう元ガンダムパイロットデュオの花嫁の元へ来たと言う訳なんですね。ヒイロの洞察力に感心している僕の肩をポンポンと叩かれて何気なく振り向くと、そこには何故か埃塗れで真っ黒になったデュオが立っていた。
「いよっ!な〜にやってんだ♪」
「デュオ!今まで何してたんだい?ついさっき爆発騒ぎがあって、それで・・・」
手短に事態を説明するとデュオは何だか面白そうにうんうんと大きく頷いている。
「あ〜ナルホド、爆弾ねぇ〜♪」
「貴様何をのんびりしている。自分の妻となる人間がどうなってもいいのか!」
「うーちゃん、まだが狙われてるってわかんねぇだろ?」
「だがもしもという事もある。」
トロワも心配そうに新婦控え室へ視線を向けている。
その目は今まで見た事が無いくらい柔らかな色をしていた。
「へーきへーき、アイツなら大丈夫だって♪」
「でも・・・」
僕がデュオに声をかけようとした瞬間、新婦控え室のドアを突き破って大柄な黒服の男がひとり吹っ飛んできた。
「え?」
「おいでなすったか?」
ペロリと舌を出したデュオがそれを合図に黒服の男の腕を掴み、後ろ手に手錠をかけた。
「ヒイロ!わりぃがコイツ、逃げ出さないよう見ててくれ!」
「何故オレが。」
「いいじゃんいいじゃん。頼んだぜ!」
「ちょっとデュオ!!」
そのまま新婦控え室へ駆け込んでいったデュオの後を追った僕達は信じられない物を目にした。
人間驚きすぎると声が出ないって事を・・・僕はこの時初めて知った。
つい30分前に見た彼女は・・・本当に儚げで風が吹いたらそのまま何処かへ消えてしまいそうなほど可憐だった。
全体的に細身で、それを覆っているドレスも彼女の美しさを十分引き出していた。
・・・その彼女が今、ドレスの裾を翻しながら次々襲い掛かる男たちを一撃で倒している。
そしてその側では一切彼女の方を振り返らず、デュオが倒れた男の背広を漁り何か探しているようだった。
ドレスの裾を片手でまとめ、相手の急所を素早く攻撃しその場に倒していく。
何とか平静を装いながらチラリと他のみんなの顔を見ると・・・やっぱりはとが豆鉄砲を食らったような顔をして立ち尽くしていた。
・・・あのヒイロですら黒服の男の腕を掴んだまま僅かに口を開け驚いたように目を見開いていた。
「いやぁ〜悪かったな、手伝わせて♪」
あの爆弾騒ぎは結局デュオの所為だった。
がとあるフロッピーを持っているという嘘の情報を流し、それを狙ってやってくる男達の上の人間を突き止めそれを依頼人に報告すると言うのが今回の任務だったらしい。
「でもおかげで早々と片付いて式に間に合ったぜ、さんきゅーv」
それなら前もって言って欲しい、とか
そんな任務結婚式前に受けないでくれ、とか
結婚式まで仕事に利用するのか、とか
言いたい事は色々あるんだけど、今は目の前で起きた出来事がまだ飲み込めない。
僕らはあの後暫くあの場を動く事が出来ず、仕事が片付いてすっきりしたデュオに連れられて・・・と言うより引きずられて新郎控え室に詰め込まれてしまった。
「お前ら人の言った事信じないからこんな事になるんだぜ?オレちゃんと招待状届けに行った時に言ったろ?はオレよりも強いって・・・」
「言葉で聞くのと目で見るのでは違う!」
「確かに彼女は最小限の動きで最大限の効果を引き出せる、素晴らしい動きをしていた。」
「お、オンナのくせに・・・」
やっぱり皆、彼女に抱いていた想いは一緒だったんですね。
か弱く儚げな彼女を守ってあげたい・・・でも実際はひとりでも十分強い、女性だった。
「は強いけど強くねぇよ。」
「え?」
真っ白なタキシードを着て胸にブートニアを挿しながらデュオが小声で呟いた。
「オレの弱い所はアイツが支えてくれるし、アイツの弱い所はオレが支えてやる。だからオレはと結婚するんだよ。」
キッパリデュオがそう言った瞬間、部屋の扉が開かれ今度こそ本当に結婚式が始まった。
バージンロードをデュオと並んで歩くは、ショートドレス・・・ではなく昔ながらの長いベールを被り、同じくらい長いドレスの裾を床に広げながらゆっくり歩いて行った。
僕らの横を通る時、一瞬彼女がこちらを見て微笑んだ気がした。
その横顔は・・・初めて彼女に出会った時と同じとても印象に残る笑顔で、きっと僕はそんな彼女の表情を一生忘れないだろうなと不意に思った。
だから、貴女が神に誓う時・・・僕も同じように誓います。
もしもデュオがあなたを泣かせたり、悲しませたりした時には・・・
僕が貴女を今日と同じ笑顔にしてみせると、誓います。
幸せ配達・・・2(爆笑)
まさかあの話に続きが出来るとは思いませんでした!しかも結婚式だよ(笑)
もしも今後W夢を書くとしたら『くちなしの夜』初 の人妻夢ですか!?(爆笑)
・・・とまぁそんな馬鹿なことは置いといて、ヒイロ以外の人がヒロインに恋しましたw
ヒイロも振り向いて欲しかったんですが、リリーナが怖くて(おいっ)無理でした。
書けば書くほどデュオの次に好きなのはカトルなんだなぁと思いましたね。
白く見えて灰色に見えるタイプの人は結構心惹かれます(褒めてますよ!)
デュオ、頑張ってお嫁さん捕まえておこうね?
後釜狙ってるのはヒイロ以外全員みたいだよ(笑)
・・・これでヒロインがデュオと喧嘩したとか、泣いたとかあったらデュオの命ヤバそう(苦笑)
可愛いデュオは相変らず書いていて楽しいです♪